世界ボクシングのバンタム級で、史上初の4団体統一王者となった井上尚弥は、バンタム級でやり残したことは無いと行って、あっさり、かっこよく返上表しましたんですが、アメリカでは、モンスターのネクストチャプターで井上が、どんな戦いを見せてくれるか??世界中のファンの視線が集中している。
井上は、バンタム級時代よりも1.8キロの体重を増やして戦うことになります。この新階級でモンスターの課題になる点、注目すべき部分はどこなのか。それを考えた時に、米ボクシング専門メディア『BoxingScene.com』のシニアライターであるキース・アイデック記者の指摘は適切なものに思える。
「やはりパワーが通用するかが注目点になると思う。バンタム級とスーパーバンタム級の違いは4パウンドだけだが、1階級の違いは人々が考えている以上に大きい。当然のことだが、上の階級に上げれば上げるほど相手の耐久力も増す。イノウエのパンチがこれまでと同じ効果を発揮するかどうかはわからない」
井上はスキル、守備力も備え、欠点の見当たらないオールラウンドな選手ではある。なかでも、相手の戦闘能力を一瞬で損わせ、常に警戒を促させる爆発的なパワーが大きなアドバンテージになっているのは紛れもない事実だ。
スーパーバンタム級の世界タイトルを持つ,
WBA、WBO同級王者スティーブン・フルトン(アメリカ)とWBC、IBF同級王者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)は、いずれもプロキャリアでは無敗。まだ深刻なダメージを受けた姿すら見せていない。
そんな彼らに対しても、井上がハードパンチの効果を現在と同様か、それに近いレベルに保てれば、バンタム級で見せたような無双状態が続く可能性は高い。しかし、パンチを当てた際の反応がこれまでと違うものになった時には――。
「スーパーバンタム級の体重であればもっと動けるし、力も発揮できるのかなと思っています。とはいえ、それは自分が動けるというだけの話。より大きな相手にどれだけのダメージを与えられるか、自分が(被弾したときに)どれだけのダメージを感じるかというのはわかりません。そこは未知の世界になります」
昨夏に筆者とのインタビューで“未知の世界”という言葉を使った井上の言葉は字面だけを見れば不安そうに感じられるかもしれない。だが、実際には楽しみで、勝負の時が待ちきれないと感じているようにすら思えた。
こればかりはやってみなければわからない。しかし、個人的にはスーパーバンタム級では井上のパンチの効果は増す可能性すらあると考えている。昇級後にパンチの効き目を保つのは難しいと思うかもしれないが、スーパーミドル級に上げてからのサウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)のように、厳しい体重調整からの解放がプラスに働くケースは、ボクシング界においてはしばしば見受けられる。
井上に関しても、これまでスーパーフライ級、バンタム級と階級を上げていくたびに、より支配的な強さを見せてきた。ゆえに今回も厳しい減量が緩和されれば、一段上のパンチ力が解き放たれても不思議はない。この“効果”の行方は非常に楽しみな要素であり、スーパーバンタム級に上げた直後の数戦での最大の注目ポイントになるだろう。
最後になるが、筆者は前述通り、井上のパワーはスーパーバンタム級でも同等の威力を発揮すると見ている。だが、一方で、誤解を恐れずに言えば、効果が落ちた方が今後の戦いはより興味深くなるかもしれないとも考えている。なぜなら、これも昨夏に井上自身がこう語り残していたからである。
「今まではパンチを当てていくごとに相手の表情が変わっていたんですけど、スーパーバンタム級、フェザー級と上げたときに、バンタム級なら普通に倒していたパンチでも耐えられてしまうかもしれません。そうなったときのメンタルの保ち方。それは楽しみだなとも思うし、怖さでもあります。そこで自分のすべてが見せられるのかもしれません」
これまでまだ見せてきていなかった“モンスターのすべて”とはどういう意味なのだろう? パワーパンチで相手の表情が変わらなかった時に、どれだけの引き出し、どんな奥行きの深さを見せてくれるのか。これまで私たちが見てきた「井上尚弥」はまだ完成形ではなかったのかもしれない。
そんなスリリングな疑問と期待感も抱きながら、日本ボクシング界が産んだ最高傑作のスーパーバンタム級での初陣を待ちたいところだ。